
――中古ショップとゲーム流通の「もうひとつの現実」もしも1994年12月3日、あの日に「プレイステーション」が発売されていなかったら――。この問いを立てると、ゲーム業界の姿は想像以上に違っていたかもしれません。
■ 群雄割拠の90年代前半
当時のゲーム市場は、任天堂とセガ、そしてハドソン&NECによるPCエンジンが競い合う“群雄割拠”の時代。
カートリッジやHuカードが主流で、1本のソフトが1万円を超えることも珍しくありませんでした。
そしてPCエンジンは、世界で初めてCD-ROM²を採用し、アニメーションや音声を活かしたリッチな演出を実現。
当時としては革命的な試みであり、後の光ディスク時代を先取りしていた存在でもあります。
ただ、技術力の先進性とは裏腹に、流通網や宣伝力、そして方向性で任天堂・セガに及ばず、徐々にその勢いを失っていきました。
それでも全国には活気ある中古ショップが並び、店ごとに工夫を凝らしたディスプレイや値付けが個性を生み出していた時代です。
■ ソニーが変えた「流通の構造」
しかし、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が登場し、光メディアを採用した“安価で大容量のディスク時代”が始まりました。
そして彼らは、流通構造そのものにメスを入れ、メーカー直販やプロモーション戦略で「小売り中心」の時代を変えていきます。
やがて中古ソフト裁判、そしてダウンロード販売の時代へ――。
結果的に、中古ショップは静かに数を減らしていきました。
■ もしSCEが存在しなかったら
では、SCEがいなかった世界ではどうなっていたのか。
おそらく“遅かれ早かれ”同じ方向に進んでいたと思います。
技術の進歩とネット環境の拡充が、「パッケージ流通」という仕組みを時代遅れにしていったのです。
ただ、セガがDL販売を主導する姿は少し想像しづらく、もしも動くとしたらマイクロソフトやPCのSteamが早期に席巻していた可能性もあります。
■ 失われたかもしれない“進化”
SCEが存在しない世界では、
- コントローラーのグリップ形状
- アナログスティックや振動機能
- GPU開発競争
――といった革新も遅れていたかもしれません。
技術のブレーキは、文化のブレーキでもあります。
結果として、今私たちが知る“ゲームの進化”は、数年単位で遅れていた可能性がある。
そして中古ショップはもう少し長く生き延びたかもしれません。
■ 中古ショップの現実と複合化の波
しかし、CDやビデオのレンタル店が軒並み姿を消した現在を見れば、中古中心の業態だけで生き残るのは極めて難しかったことも事実です。
実際、今「ゲームショップ大手」と呼ばれる
ゲオさんや古本市場さんでさえ、ゲームは「一つのジャンル」
として扱われ、
店舗の主軸はサブスク・レンタル・中古本・スマホ買取などを組み合わせた複合ストア化が進んでいます。
■ 分岐点の先にあった「正解」
「プレイステーションが存在しなかった世界線」は、決して“理想の過去”ではないけれど、
あの分岐点でSCEが生まれたことで、業界が新しいステージに進んだのもまた事実。
たとえ中古ショップが減ったとしても、その流れの中で次の時代の遊び方を提示してきた――
それが、SCEという存在の大きさだと思います。
いま振り返ると、あのときの選択は確かに「数ある正解のうちのひとつ」だったのかもしれません。